
14日(土)、NHK総合の特集ドラマ「お買い物」を観る。いや、こりゃおもしろい!
5月。福島の田舎で暮らす老夫婦。座ったきりで一日中テレビを観るばかり、風呂にも入ろうとしないおじいさん・斉藤茂吉(笑)の元に一通のダイレクトメール。7月に渋谷で開かれるという中古カメラ市の知らせだった。その日から様子が変わり、近所のお寺の石段を登って体を鍛え始めた茂吉じいさん。夏になり、7月5日の土曜日に渋谷の中古カメラ市に行くと宣言。若いころカメラ好きだったが、おばあさんも知らないうちに機材を手放していた茂吉じいさんの血に、どうも火がついたらしい....
悪人は一人も出てこない。多少毒があるのが、「遺族から中古カメラの掘り出し物が出るかもしれないから」と、老人の元にもダイレクトメールを送ったり、高額なカメラを買うのをためらっている茂吉じいさんを言葉巧みに誘うカメラ屋「天共カメラ」の店主くらいか。当然、ドラマは淡淡と進む。
しかし淡淡とした展開の中でゆっくりと、老夫婦の、そして孫娘の愛情が浮かび上がる。ここがお見事。
カメラをあきらめかけた茂吉じいさんを見かねて、ホテル代を犠牲にしてサイフの紐を緩めるおばあさん。土曜日のデートをしていたらしい孫娘だが、彼氏の好意もあり、祖父母を自室に泊める。茂吉じいさんが好きだったカメラを手放した理由も明らかになる。
前に遠出をしたのは誰の葬式だった、いやそれよりあの人の葬式が後だったか。死因は心臓? いやすい臓がん、いやそれは別の人で....物忘れが激しくなった老夫婦の会話。しかし、思い出の場所・東京駅の地下道入り口の柱の前で、二人の記憶の焦点がピタリと合う場面が特に印象的。
物忘れの激しい老夫婦を演じた久米明さん・渡辺美佐子さん。本当に物忘れが激しかったら、東京に向かう電車の中・ノーカット長回しの会話など演じられないだろう、お見事! 孫娘の市川実日子さんも自然ですばらしい。
脚本は岸田国士戯曲賞作家:前田司郎さん、演出は中島由貴さん。
再放送の機会があったら、ぜひご覧ください。